船橋市西図書館蔵書破棄事件

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船橋市西図書館蔵書破棄事件は、船橋市西図書館司書 土橋 悦子(どばし えつこ、1948年 - )が、西部邁新しい歴史教科書をつくる会会員らの著書計107冊を、自らの左翼思想に基づき、廃棄基準に該当しないにもかかわらず除籍・廃棄した事件。

概要

この事件は翌2002年4月12日付けの産経新聞1面にて報道された。船橋市教育委員会が調査に動き、5月に関係者の処分が行われた。廃棄された図書のうち103冊が廃棄した土橋 悦子ら5人によって寄付という形で弁償された。ただし廃棄された図書のうち4冊は入手困難であったために弁償されず、同じ著者の別の書籍を寄付している。

被害を受けた「新しい歴史教科書をつくる会」と井沢元彦ら7人は、表現の自由を侵害されたとして提訴。1審の東京地裁と2審の東京高裁は、廃棄の違法性を認定したものの、蔵書の管理は市の自由裁量とし、著者の権利を侵害したとは言えないとして、請求をすべて棄却した。2005年7月14日最高裁は廃棄は著者の人格的利益を侵害する違法行為と認定、2審判決を破棄し審理を同高裁に差し戻した。差戻し控訴審判決(同年11月24日)は、「廃棄されたのと同じ本が再び図書館に備えられている」などとして、賠償金は計2万4000円、一人あたり3000円とした。

その後、2006年4月7日 最高裁は上告を棄却。同年8月9日、船橋市は国家賠償法第1条2項に基づき、この不法行為を実行した土橋 悦子に求めていた賠償金の全額補填が日納付されたと発表した。

「現代版焚書」として、また公立図書館に対する著者の権利が争われ、表現の自由・利用者の知る権利とも関連するケースである。

廃棄を行なった土橋 悦子の対応

  • 廃棄を行なった土橋 悦子は船橋市による聞き取り調査に対して2001年8月10日、14日、15日、16日、25日および26日の6日間に107冊の図書を除籍したことを認めた。
  • 同聞き取り調査で、土橋 悦子は特定の著者の図書を一時期に大量に廃棄するに至った経緯について、次のように述べた。

利用者から新しい歴史教科書をつくる会が作成した教科書についての問い合わせがあり、それを調べる目的で関係図書を集めたところまでは覚えている

平成14年第2回船橋市議会定例会会議録(第4号・3)

  • 土橋 悦子は同聞き取り調査で、廃棄をした理由は説明できないと述べた。
  • 土橋 悦子は同聞き取り調査で、思想的背景で図書を廃棄したことを否定した。
  • 2008年、土橋 悦子は絵本『ててちゃん』(福音館書店)を公表して絵本作家としての活動を再開した。
  • 土橋 悦子は事件発覚後にJBBY(社団法人日本国際児童図書評議会)で理事に任命された。(任期:2005年5月~2007年5月)

西部邁の反応

  • 西部邁はこの件を引き合いに出して次のように述べている。

つい先だって、船橋の市立図書館で、私の書物が一冊を除いてすべてひそかに廃棄されるという扱いを受けたが、次の焚書に当たっては、本書(『知性の構造』ハルキ文庫版)がその一冊の例外になるという名誉にあずかれればと切望する。坑儒されてみたいくらいに思っている私がなぜこんなことをいうのか。それは、本書がどこかに残っていれば、その作成に携わってくれた皆様に――単行本を物にしてくれた小山晃一氏を含めて――ささやかな返礼ができると思うからである。

西部邁『知性の構造』ハルキ文庫、2002年、270頁

どこかの公立図書館で、僕の著書が五十冊ばかり、(いわゆる左翼の)図書館員によって勝手に廃棄されていると報道されたとき、僕は、「載断(せつだん)するなり焼却するなり、どうぞお好きなように」と応えました。

西部邁『妻と僕 寓話と化す我らの死』 飛鳥新社、2008年、215頁

自分の言説が受け入れられなくても、私は痛痒を感じません。それどころか私は、若いときからずっと、「坑儒」(知識人への生き埋め)されるのはちとつらいが「焚書」されるくらいはまったく平気、という種類の人間なのです。事実、どこかの図書館で、私の五十冊ばかりを含めて、左翼の気に入らない書物が勝手に廃棄されたとき、それに抗議する原告団に私は加わりませんでした。いくつかのメディアがそれについて取材してきた折にも、これはホンネではなかったのですが、「坑儒されても文句はいいません」と虚勢を張っておりました。

西部邁『どんな左翼にもいささかも同意できない18の理由』幻戯書房、2013年、42頁

  • 2009年、西部は『焚書坑儒のすすめ』というタイトルの著書を公表した。

エピソード

  • 船橋市立図書館は、廃棄を行った土橋 悦子が書いた童話絵本『ぬい針だんなとまち針おくさん』を35冊も購入し所蔵していた。これはベストセラーである『世界の中心で愛を叫ぶ』(23冊)や『負け犬の遠吠え』(16冊)よりも多かった。さらに同司書が翻訳した『メリーゴーランドがやってきた』は32冊も所蔵されていた。
  • 雑誌『ず・ぼん』2005年11月号は「船橋西図書館の蔵書廃棄事件を考える」という特集を組んだ。

関連項目

外部リンク

資料・判決文

解説・意見